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2008年06月04日

●The man has a thick hide.

かねてより私は虫歯に悩まされるという悲運の持ち主であるが、今回はひと味違っていた。
数日前より突然奥歯の辺りがジクジクと疼き始め、気がつけばアイスも食えぬ、ラーメンも食えぬ、夫婦喧嘩は犬も食えぬ状態に陥っていた。

「これはデンティストに見て貰わねば!」

私はいつものごとく興奮した面持ちで戦場に赴いた。

過去幾度もこの日記に登場しているデンディストとの攻防戦だが、今回は稽古中と言うこともあり、そう長々と文章を書いている時間も無ければ体力もない。ましてやそれを面白おかしく書けなどと言われた日には、生卵を殻ごと食う苦痛を味わうようなものである。

ここは一つ冷静に、事実だけを淡々と。

私の通うクリニックは、シックな外観とは裏腹に、アシスタントの女子が揃いも揃ってべっぴんさんという、まさに上は大水、下は大火事状態である。極度の人見知りであり、かつ、女性恐怖症というあり得ない弱点を包括して止まない私にとって、これはまさに試練である。死ねばレベルは1に戻る状態と言っても過言ではないし、この冗談が一般人には通用しないことも重々承知の上だ。

私は徐に、だがしかしダンディズムを忘れずに扉をゆっくりと開ける。

「こんにちは~」

「はい、どうもこんにちは」

もちろんそんな風には返事をしない私は、無言のまま速やかに且つ洗練された手つきで診察カードを提出する。月初めには保険証の提出も忘れない。これは大人の常識である。

診察の順番が来るまでの間、置いてある雑誌新聞に目を通す。
このクリニックに置いてあるモノは以下の通り。

・女性セブン
・日経新聞
・情報系雑誌

もちろん私が読むモノは「日経新聞」だ。移ろいやすい芸能界の恋模様には微塵の興味も見せず、颯爽と新聞を読む私の姿はきっと、大手町を大股で闊歩するビジネスメンに見えることだろう。それが例え「国民健康保険証」を提出していたとしてもだ。

「細見さんどうぞ」

デンティストが私を呼んだ。

「軽々しく呼ぶな!」

私はそう一喝すると、ヒョイッと椅子に飛び乗った。そう、何事も初めが肝心である。嘗められてたまるモノですか!

「先生、どうやら奥歯の辺りがジクジクするのです。これは以前、あなたに修復していただいた箇所かと思われますが、一体全体どういうことでしょうか。事と次第によっては私は一暴れする覚悟ですよ」

「どれどれ、拝見」

先生は私の口にあれを押し込んだ。すぐ脇にはアシスタントの女子が立っている。
おい、なぜそこに立っているのだ。立って何を見ているのだ。私の心臓は早鐘のようにドンドンパンパン打ち始める。おい、君、そこに立つな。立って私を見るではない。鼓動は更に早くなり、額から汗がニョロニョロと吹き出し始める。ああ、何たる屈辱。こんな辱めを受けるのは、3裁の時にデパートで迷子になって以来だ。あの時は確か、試着室で眠りこけてしまったんだっけ。その頃の私ったら、それはもう天使ばりに可愛らしく愛らしく良い匂いがする子供であったに違いない。

「ああ、これはどうやら以前神経を抜いた場所が化膿してますね」

「なぬ!」

これは新手の攻撃か?虫歯界のエリートとも言われる「無神経化膿攻撃」である。
私は恐る恐る先生に問うた。微かに声が震えていた気もする。

「先生、それは一体どういう・・・」

「ああ、つまり日頃の不摂生がたたったというか、ちゃんと歯を磨けてなかったというか」

「なぬ!」

歯を磨けていないとはどういうことか!私は、「芸能人は歯が命」というスローガンを掲げてここまで生きてきた人間であるぞ。歯ブラシはドイツ製の電動歯ブラシを使用し、朝・晩と忘れぬ限りはほぼ毎日のように磨き続けてきたというのに。それを不摂生の一言で片付けるとは!

「何をこの藪医者!あんたこそ無神経ではないか!だいたい、神経をもう抜いておるのに痛みがあるだあんて、そんな無神経な話聞いたことないわ!」

「無神経なのはあんただ!人がせっかく時間を割いてまであんたの歯を治そうとしてやってるのに。歯を治す前に、あんたのその無神経っぷりを治療してやろうか!口の中のあらゆる神経を抜ききったろか!」

そうデンティストに一喝されると、私は途端にミジンコ級のハートの持ち主に変貌した。

「いや先生、それは勘弁、どうか勘弁を。確かに今の私の発言は至極無神経であった。あんたの力量を見誤った。反省する。もう無神経な発言は言わない。だから頼む。私の残された神経の為にも、どうかこの無神経な痛みを成敗してやっておくんなまし」

「あいわかった。そこまで言われては断れまい。私も全力でその無神経な痛みを叩き潰してやりましょう。ああ、久しぶりに腕がなる」

そう言うとデンティストは、ポキパキと指を鳴らして治療に取りかかった。

「腕がなると言った癖に、指を鳴らしておる場合か」

そう、私は心の中で突っ込んだ。もちろん声には出していない。なぜなら私は無神経ではないから。


たいしたオチもつかぬまま、長くなりそうだからつづく

参考文献っぽいもの

は2

wisdom tooth

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