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2002年1月5日「wisdom tooth」 |
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年初めに恒例となりつつある行事がある。 僕は最近、歯医者が嫌いだ。 だって、怖い。 そもそも歯は丈夫だった。 そして僕は虫歯になった。 年末あたりから歯がうずきだして、 実に1年ぶりだった。 実は1年前、親知らずを抜いた。 そして1年が過ぎたのだ。 「細見さん、久しぶりですね。1年ぶりですか」 歯医者さんはそう言った。 「ええ、しばらく東京を離れてまして。やっと帰ってきたんです」 「お仕事ですか」 「ええ、のっぴきならなくて」 「は?」 「ええ。そういうことで」 「なるほど、よござんす。では、治療を始めましょう。いやさ、正確には1年前のあの時に戻りましょう」 「そうですね。僕の時間は、あの時から止まったままですから」 「冗談はさておき、座ってください」 僕はなすがままだった。 「で、どうしました?」 「歯が痛いんです」 「それは承知してます。だってあなたは、歯医者に来たのだから」 「それもそうですね。実は、ご飯を食べると歯がしみるのです」 「そりゃあそうでしょう。だってあなたは1年前、治療途中に 「反省しています」 「人生そんなものです。反省と後悔を繰り返す。おや、それでは後ろ向きばかりですね。ヌカヨロコビと後悔ですね」 「そうです。ミサトさんがシンジにそう言ってました」 「ミサトさんには悪いことをしました」 「意味がわかりませんが」 「意味なんてありませんよあなた。人生に意味を求めること、それこそが無意味な行為なのです」 「哲学ですね。そんなことより歯を治療してください」 「わかりました。私には心の病は治せませんが、歯の病は治せます」 「わかってます。そんなことは聞いてません」 「もう少し話しませんか」 「歯を治療しましょう」 治療が始まった。 「親知らずを抜きましょう。これが全ての原因です。 「ユーミンですね」 「ねえムーミン」 「いいから」 「すみません。あ、すごいですね。歯の間が全部虫歯だ。 「そんな無神経な」 「うまいですね。そうです、まさに無神経になるわけです」 「座布団はあげませんよ」 「では麻酔します。安心してください。あなたが麻酔状態にあっても、私は何もしませんから」 「どんな歯医者ですか。そんな心配はしてませんよ。 「いえ、局部麻酔です。ほら」 麻酔注射は痛かった。 美しい女性が僕の唾液を吸い始めた。 「麻酔が効く間、虫歯の治療をしましょう。 「今日の僕は、あなたのものです」 「そう言っていつもくどくのですね」 「それでおちた女はいませんが」 「苦労してるのですね」 「ええ、噂ばかりが一人歩きして・・・そんなことより治療を」 「おや、気づきませんでしたか。もう治療は始まっているのです。 「それは気づきませんで。失礼」 「すごい虫歯ですね。どんどん削ってしまおう。 「やめてください」 「冗談です。あ、」 「なんですか」 「いえ、なんでもありません。身を削ることはあっても 「すごく不安になってきました」 「誰だって不安になることぐらいあります。 「やめてください、もう」 「恋したっていいじゃない」 「意味わかりません」 「さて、虫歯の治療は終わりました。 「親も知らないこの歯を、ですね」 「そうです。なんなら今連絡しますか?」 「それじゃあこの『親知らず』は、『親知る』になってしまいますよ」 「それは大変だ。じゃあ、親に知られないうちに 僕は不安だった。 「や〜こりゃひどい。歯が横に生えてるよ」 「親にも知られなかったので、ゆがんでしまったんですね」 「そうです。でも安心してください。人間誰しもゆがみはあります。 「そうですか。色々苦労したんですね」 「いえ、今のは例え話です」 「何を例えたんですか」 「抜きました」 「え?」 「見ますか。これです」 僕は抜き取られた『親知らず』を見た。 「立派な親知らずだ」 「ええ、立派ですね」 「どうです。親が知らなくとも、立派に育つものなのですよ」 「そうですね。それがどんな形であれ」 「必要がないから抜かれる。なんだか悲しいとは思いませんか」 「僕は必要なものなんでしょうか」 「それは私にはわかりません。 「本当にそうなんでしょうか」 「必要とされるかどうかは、あなたにかかっているんですよ。 「ありがとう。なんだか、心が軽くなりました」 「私には心の治療はできませんよ」 「いえ、なんだか明日からも頑張っていけそうです」
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